葦の葉ブログ



2018/4/13
安倍総理とトランプ大統領
久本福子


 安倍総理は4月17日に訪米し、昨年の訪米時と同じ、フロリダにあるトランプ大統領の別荘で、第3回目(アメリカでは2回目)の日米首脳会談を行うこになっていますが、目下の国内外の情勢を考えるならば、大統領の別荘が会談場所になることには非常な違和感を感じざるをえません。わたしは当初、この場所設定はトランプ大統領からの提案だとばかり思っていましたが、何と、安倍総理からの要請によるものであったという。「まぐまぐニュース」に掲載されていた評論家の高野孟氏のブログ(日本に見切りをつけたトランプ氏と「ゴルフ外交」やってる場合か) で知り、衝撃を受けています。安倍総理がここまでピンぼけ状態にあったのかとの、驚きを超えた衝撃です。

 別荘とは仕事を離れ、日常を離れてくつろぐ場所であることはあらためて言うまでもありませんが、目下の国内外の情勢は、両首脳がゴルフに興じた前回とは様変わりしており、別荘という私的な空間で首脳会談を行うような雰囲気ではないことは明らかです。加えて、設定当時は想定外だったとは思われるものの、シリア情勢も緊迫度を増しています。4月3日に正式に発表された日程ではゴルフの予定があるのかどうかは不明ですが、日本が直面している問題は、トランプ大統領との個人的関係を演出するだけで解決できる質のものではないはずです。そもそもトランプ大統領は日本に対しても、安倍総理と親密であったはずの関係を完全に無視した態度を平然と表明しています。

 トランプ大統領は、Twitterを使ってティラーソン国務長官に馘首を告げるなど、他者の人格を平然と踏みにじって全く恥じるところがありません。想像を絶するその酷薄非情さには言葉もありませんが、目的達成のためにはどんな悪評も平然と無視して驀進する、トランプ流哲学がもたらす結果については、冷静に検証する必要はありそうです。

 初の米朝会談もトランプ大統領が課した、一切手を緩めない制裁が功を奏した結果だと思われますが、北朝鮮側からの会談申し入れを受け、史上初の米朝首脳会談が行われることが明らかになってからも、トランプ大統領は北への圧力の手は全く緩めていません。トランプ大統領は、非情なやり方で国務長官などを次々と辞任に追い込み、ポンペオ氏やボルトン氏など保守強硬派を後釜に据えました。北朝鮮なら日常茶飯事だと思われる、目的達成のためには容赦なく邪魔物を排除していくトランプ流人事だけでも、北朝鮮にとっては相当な圧力になったものと思われます。しかしトランプ流圧力は、国内だけにはとどまらず、海外にも及んでいます。

 トランプ大統領が鉄鋼やアルミニウムなどに25%関税を課すと発表した貿易不均衡是正問題は、まさに海外向け圧力だと見るべきです。主たる対象は中国、日本、韓国です。EUは制裁対象から除外されたものの、従来の世界政治の常識からすると、史上初の米朝会談を目前に控えたこの時期ならば、関係各国、米中日韓、特に米中韓とは緊密に連携して北の非核化に向けて努力すべしという一点に議論は収斂され、関係国首脳もその路線で関係を密にすることで一致するのがごくオーソドックスな成り行きだったと思われます。世界中のマスコミもその路線を強力に支持したはずです。

 しかしトランプ大統領はこの常識的な路線とは真逆の、中日韓という関係3カ国に対して、貿易に関する厳しい制裁措置を誰はばかることなく発表すると同時に、猶予を与える間もない性急さで対応することを求めてきました。金正恩労働党委員長が初の外遊として、夫人同伴で初めて中国を訪問し、両国の親密さをアピールするような、習近平国家主席夫妻と金夫妻の並んだ写真が世界中に流され、その衝撃が世界中を揺るがしていたさ中、トランプ氏は、中国を筆頭に日韓を標的に圧力をかけてきました。この制裁措置を発動したトランプ大統領の狙いは、国益を守るためなら、日韓はもとより、中国と対立することも一切躊躇はしないという態度表明にあったと見るべきでしょう。

 このトランプ流圧力のかけ方に最も驚愕したのは、北朝鮮であったことは言うまでもありません。中国にとっても、北朝鮮との親密な関係の回復は、目前に迫る米朝会談もあり、米中関係の緊密化を促す契機になると考えていたと思われますので、その真逆の反応には驚愕したはずです。しかし中国との関係修復に成功した北朝鮮は、中国を強力な後ろ盾として米朝会談を有利に進めようとしていたはずですので、中国以上に驚愕したはずです。おそらく北朝鮮は、トランプ大統領を相手では、中国を盾にした交渉は不可能であると観念したはずです。と同時に北朝鮮は、トランプ流戦法ならば最悪の場合、韓国や日本を巻き込んででも北朝鮮への軍事攻撃もやりかねないと考えたはずです。

 つまりトランプ流貿易制裁は、対米貿易赤字の解消のみならず、北朝鮮に対する強力な圧力装置として設定され、その機能を容赦なく発動させたものであったわけです。ここまで深層を読み解いた記事や論評類は既存マスコミはもとより、WEBでも見つけることはできませんでした。おそらく皆無ではないかと思われますが、ここまで深く読みこむと、トランプ大統領の突発的で矛盾だらけに見える行動は、実は非常に戦略的なものであったことが分かります。

 日本では、韓国はこの制裁対象から除外されているとの解説が多々見られますが、米韓FTAの見直しがなされており、この見直しの中で韓国の対米貿易赤字削減も議題になっていたからです。見直しの内容は、専門家によると、そこまでやるかというほどに韓国にとっては厳しいものになったそうですが、その厳しいFTAも、韓国が北朝鮮に融和的な態度を取らぬように、発効を当面保留することも米側から発表されています。韓国の働き如何によっては解除されたか、解除されるはずです。トランプ大統領は、おそらく日本に対しても、韓国に対してと同様、自国に有利な条件を強引に呑ませる魂胆だと思われます。

 中国は、当初は報復関税も辞さない構えを見せていましたが、すぐさま自由化路線へと舵を切っています。のみならず、中朝融和ムードを一転するかのような厳しい規制を北朝鮮に課してさえいます。常識外れのトランプ大統領の政治手法は、目的達成にはきわめて有効に機能していることだけは、現実として認めざるをえません。米朝会談その場においても、トランプ流が勝利を収めるかどうかは不明ではありますが、外堀を埋めることにはほぼ成功したのは確かだろうと思われます。

(4/15追記  14日、トランプ大統領は英仏と共同でシリアに対する軍事攻撃を実施しましたが、ロシアには事前に通報した上で、化学兵器3施設破壊に特定したピンポイント的精密爆撃を命令したという。この攻撃に対しては当然のことながら批判も出ていますが、正否の問題は別にして、戦闘の拡大を事前に防止する措置をとった上でのシリア攻撃は、最悪の場合起こりうる、北朝鮮に対する攻撃の一つのモデルとなりうるものだとも思われます。

 
こんなトランプ大統領を相手に、親密な個人的な関係をアピールすることで、日本の国益を守ることのできる可能性は100%ありえぬことは言うまでもありません。安倍総理はまさか、巨額の貢ぎ物を捧げるつもりではないでしょうね。日本はもうすでにトランプ大統領親娘に対しても過剰すぎる貢ぎ物をしているわけですので、安倍総理には、その元を取るぐらいの覚悟で訪米していただきたいですが、日本国内の政局は、その戦略を練ることはおろか、考えることすら不可能な状況です。安倍総理にも責任があるとはいえ、こんな国会(議会)論議は世界中探しても日本以外には皆無でしょうね。安倍総理が辞めるまで続きそう。何かもうめちゃくちゃですね。

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