葦の葉ブログ |
6月12日、世界中が注目する中で、史上初の大イベント、米朝首脳会談が開催されました。しかしその中身の余りの乏しさには、ただただガックリ。トランプ大統領にとっては、何のために米朝首脳会談を開催するのかという本来の目的よりも、首脳会談の開催そのものが最大の目的であったのではないか。そんな疑問すら感じさせられる会談でしたが、北朝鮮の言い分を100%丸呑みしなければ、首脳会談は実現しなかったことは、共同声明が、北朝鮮の意向に沿った内容になっていることからも明白です。
首脳会談の最大の目的は、「北朝鮮の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」(CVID)を北朝鮮に認めさせることにあることは、米政府も繰り返し表明していましたが、いざ蓋を開けてみると、本来の目的は姿を消し、南北首脳会談でも強調された「朝鮮半島の非核化」という、北朝鮮の年来の主張にすり替わっています。その具体的な方法が示されていないことには各方面から批判の声が挙がっていますが、そもそも会談の最大の目的である「北朝鮮の完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」が、共同声明には文言としても一言も入っていないという、北朝鮮のほぼ完全勝利に近い結末には、ただただ唖然とせざるをえません。
まず史上初となる米朝首脳会談を開催し、米国民や世界中の人々の、北朝鮮に対する警戒感を解いて友好ムードを醸成し、友好的な雰囲気の中で北の非核化に向けたプロセスを進めていくというのが、トランプ大統領の考えのようですが、だとすれば余りにも甘い。南北首脳会談後、北朝鮮は非核化に向けたパフォーマンスとして核実験場を爆破しましたが、当初約束していた米国の専門家の立ち会い、査察の受け入れを反故にし、米国はもとより、いずれの国の専門家やIAEAなどの専門家も査察には入れず、この実験場の爆破が、北の核実験場の閉鎖を意味しているのかどうかすら検証不能のままです。北朝鮮は、一つの核実験場の爆破ですら、外部の査察の受け入れを拒否したまま、非核化に向けた具体的な行動だと宣伝していますが、米政府は全く批判らしい批判も発していません。
そして史上初の米朝首脳会談での、米国政府の一方的な譲歩。トランプ大統領はひょっとして、北朝鮮の核保有を事実上容認したまま、米朝の友好関係を推進していく方針でいるのではないか。トランプ大統領の金委員長や北朝鮮に対する過剰なまでの賛美ぶりからするならば、この推測もあながち的外れではないかもしれません。とはいえ予測不可能なトランプ大統領のことですから、突如融和路線から強硬路線へと転換する可能性もゼロではありませんが、金委員長を個人的にかなりお気に入りらしいトランプ大統領の言動からすると、支持率が急落するなどのよほどのことがないかぎり、強硬路線への転換の可能性はそう高くはないはず。
ただ、米朝首脳会談を友好ムード満点で盛り上げたトランプ大統領も、北の非核化実現に必要な費用などについては米国は負担しない、韓国と日本が負担するだろうとも会談後の記者会見で語っていました。金委員長にも同様の話をしたのかどうかは不明ですが、米国に負担になるようなことは、相手かまわず拒否してきたトランプ大統領にとっては、おそらく当然の判断なのだろうと思われます。これが事実ならばアメリカは余りにも無責任ではないかと思われますが、北朝鮮に資金提供をするのは韓国と日本だとトランプ大統領が明言したことは、北朝鮮にとってはかなりのプレッシャーになったことも事実だろうと思われます。アメリカは金委員長との首脳会談には応じてくれたものの、資金提供はしてくれないとなれば、トランプ大統領との友好関係を築くだけでは、実際的には北朝鮮の新国家建設は不可能になるからです。韓国も資金提供となれば渋る。資金の大半は日本に出させる以外にカネの出所はない。
これまでのように日朝だけの交渉ならば、日本を脅してカネを出させるという方法を駆使するところですが、米朝首脳会談を受けての日朝交渉となるので、いかに北朝鮮といえども、居丈高に日本を脅すという従来手法は使えない。しかも、華々しくも陶酔的な米朝首脳会談が終わると、すぐさま日米韓の外相が会談し、3カ国は緊密に連携することを表明するとともに、米朝首脳会談後の共同声明では全く触れられていない、「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化(CVID)」を追求することをポンペオ国務長官が強調しています。
日本はトランプ大統領から、非核化に向けた費用を負担するようにご指名を受けけたとはいえ、「核・拉致・ミサイル」の課題が解決されない限り、北朝鮮に対する資金援助、経済援助はありえません。おそらくトランプ大統領も日本のこの基本姿勢は承知の上で、日本もメインプレイヤーとして、北の非核化に向けたプロセスに加わることを促したのだろうと思います。費用負担の問題だけではなく、安倍総理から繰り返し依頼を受けていた拉致問題解決に向けて、日朝が交渉する場を提供することも兼ねた提案だったのだろうと思います。
と考えると、一見大ざっぱで、場当たり的な言動をするように見えるトランプ大統領ですが、アメリカに負担になるようなことは断固拒否するという絶対的な行動指針を貫徹させることで、同時に同盟国日本への配慮も果たすという離れ業を披露ししたことになります。単純でありながら複雑な結果をもたらす、トランプ大統領のその思考方法には驚かずにはいられません。大統領のその思考方法は、自分は絶対に損はしないという商売道で身に付けたものだろうと思われますが、誰にでも真似のできるものではないようです。とはいえ安倍総理も、日本には絶対損はさせないという強い覚悟で、北朝鮮との交渉を進めていただきたいと思います。
ところで米朝首脳会談では、会談の内容以外にも、多々驚愕すべき事実に遭遇させられました。その最大の珍事は、金委員長が中国国旗を掲げた、中国の政府要人専用機でシンガポールに到着したことです。独立国のトップが、他国の国旗を掲げた他国の政府専用機を使って外遊するなど、他に例のない大珍事です。どんな小国であっても、他国の国旗を掲げた飛行機で外遊するような首脳は、北朝鮮以外には存在しないはず。しかしこのことを異様だと論評した記事や報道は皆無です。少なくともわたしは、見聞きしていません。この事も異様すぎます。
それどころか、そのやむえざる事情を解説した報道ばかりが目につきました。金委員長専用機は古くて、シンガポールまでの「長距離」を安全に飛行できないおそれがあったからとか、反金勢力による攻撃をおそれて中国機を利用したとか、いろいろとその理由が推測されていますが、要するに金委員長は、独立国家あるいは一国の最高指導者としての矜持も何もかなぐり捨てて、我が身の安全第一だけを考えていたということです。加えて金委員長は、中国政府の要人専用機まで貸してもらえるほどに、中国政府の全面的な支援を受けていることをトランプ大統領に誇示したい思惑もあったはずです。
客観的に見れば、こうした状況は、北朝鮮が中国の属国であることを改めて世界に知らしめる結果になりましたが、北朝鮮はむしろ、アメリカに唯一対峙しうる超大国中国の強力な支援を受けている、唯一無二の友好国(保護国)である証拠であると、誇にすら思っているはずです。古代の大昔から朝鮮半島の各王朝は、中国の属国となることでその存続を図ってきたというその長い歴史を考えると、現代の金委員長も、自らの王朝存続のために、何の抵抗もなく中国の属国となる道を選択したことには、何の不思議もありません。むしろ歴史の反復として、当然の成り行きだといえるはずです。
のみならず金委員長は、シンガポールで移動するために防弾装置を施した自分専用の高級車をわざわざ自国から飛行機で運び込んでいます。大勢の警護要員も自国から連れてきています。金委員長がいかに我が身の安全を第一に考えているか、その異常なまでの猜疑心にはただただ驚くばかりです。金委員長自らは、自分の立場を危うくしそうな人物は肉親であろうが功労者であろうが、容赦なく次々と殺害してきたにもかかわらず、というよりもそれゆえに、逆の反復に恐れおののいていることの反映にほかなりません。
しかもあきれ果てたことには金委員長は、自分専用の防弾車をシンガポールに運び込み、我が身を護るためにはカネを惜しまないにもかかわらず、シンガポールでの宿泊先である高級ホテルの宿泊代の支払いは拒否し、シンガポール政府に支払わせて平然としています。金委員長は自ら、宿泊先は五つ星ホテルを要求し、指定していたことが読売新聞に出ていましたが、宿泊代を払う気など毛頭ないにもかかわらず、五つ星の最高級ホテルを指定していたという金委員長のその図々しさは、今後の交渉でもいかんなく発揮されるであろうことは、トランプ大統領や安倍総理も含め、世界は片時も忘れるべきではないと強調しておきたい。
ただ、会談後に北朝鮮を巡る融和ムードが一気に世界に拡がる中で、中露が北朝鮮に対する規制緩和を推し進めようとしていますので、無原則的な融和路線が加速する危険性も孕んでいます。日本にとっては、難しい交渉になるのではないかとも危惧されます。しかしいかなる状況になろうとも、北朝鮮にカネだけを差し出すという愚行だけは冒さぬように、切に願っています。