葦書房

2018/3/19

3月11日、東日本大震災から丸7年が過ぎました。7年が過ぎ、8年目を迎えた今も、被災した人々をめぐるニュースは涙なしには聞くことも、読むこともできない話がほとんどでした。悲しみに沈んでばかりいたのでは、被災地の再建も、被災した方々の生活の再建も前に進みませんが、被災者を襲った巨大な喪失の回復は、そう簡単ではないとの思いを新たにいたしました。

その一方でわたしは、福島原発事故を誘発したとされる東日本大震災が、本当に天然自然のものなのかという根本的な疑念は、今なお払拭できていないとの思いも強く持っています。本号では、これらの疑念の解明に迫りつつ、眼前で展開している国会の異常事態にも踏み込んでみたいと思います。
両者がどう繋がってくるのか。書き終わるまでは、わたし自身にも確たる姿は未だ見えませんが、おそらく繋がってくるだろうとの予感は抱いております。













葦の葉ブログ  




2018/3/12
対米貿易摩擦
  
久本福子

 アメリカのトランプ大統領は今、北朝鮮の金正恩労働党委員長からの米朝首脳会談の提案を受け、歴代大統領の誰もなしえなかった事態の進展のただ中にあります。常識がないと批判されつづけてきたトランプ大統領の政治手法が、今回は功を奏しつつあるようですが、具体的にどのような成果を生み出すのかは今のところ不明。今後の推移を注視したい。

 一方、トランプ大統領は「対米貿易不均衡」問題では、日本を含めた同盟国に対しても、関税25%という非常に手厳しい要求を突きつけています。大統領が問題にしている「不均衡」は、物の貿易、具体的には鉄鋼やアルミニウムなどに焦点を当てているようですが、この問題設定は、現在の世界の産業構造を完全に無視した、非常に偏頗なものだといわざるをえません。目下、世界はあらゆる部門でIT化が進み、IT産業が社会の基盤を制しています。そして世界のIT産業のトップを独占しているのはアメリカのIT企業です。つまりアメリカのIT企業が、世界をほぼ完全制覇しているといっても過言ではありません。

 昨年発表された世界時価総額ランキングによれば、アメリカのIT企業ビッグ5、Apple、アルファベット(Googleの持ち株会社)、Amazon、Facebook、Microsoftの時価総額が3兆ドルを超えたことは、日本の一部マスコミでも報道されていましたが、アメリカの世界に冠たる旧来型の老舗企業群をはるかに凌駕しての、IT5社による上位独占です。

 最新の2018年1月時点の世界時価総額ランキングでは、中国のIT企業が上位(テンセント5位、アリババ8位、中国商工銀行9位、中国建設銀行11位)に躍り出たとの大異変が起こってはいるものの、米のITビッグ5が上位を独占している状況に変わりはありません。それどころか、Apple、アルファベット、Amazon、マイクロソフト、FacebookのITビッグ5の時価総額は、昨年よりさらに上昇し、3兆6500億ドルになっています。日本企業の最高位は43位のトヨタですが、時価総額は2050億ドル、米のITビッグ5の約18分の1です。米のITビッグ5は世界の市場をほぼ独占していますが、日本においても同様です。ビッグ5の時価総額の膨張はその反映だと思います。

 加えて、世界ランキング上位には登場していないものの、IBMなどのアメリカの老舗IT企業も、日本のシステム関連事業では独占状態に近いシェアを保持しています。良質なシステムを適切な価格で提供してくれているのであれば、独占状態でも日本経済には大きなマイナスにはならないとは思うものの、昨今は、様々な問題が発生しています。日本企業がIBMと新しいシステム構築の契約を交わし、必要な費用も支払ったにもかかわらず、システムを作成できなかったという事例が相次いでいます。アメリカ本社も技術者を送り、支援したそうですが、にもかかわらず、約束したシステムを作ることができなかったという。

 世界に冠たる老舗IT企業のIBMが、受注したシステムを作成できないということ自体、信じられない驚愕的な出来事ですが、さらに驚いたことには、IBMは、約束した製品(システム)を納品することができなかったにもかかわらず、支払い済みの費用は返還しないという詐欺まがいの対応を取っているという。企業の品格も商道徳も完全崩壊。日本企業(わたしが偶々ネットで確認したのは文化シヤッターとスルガ銀行。他にもあるのではないか)はやむなくIBMを提訴したという。わたしはIT関連のWEBニュースで知ったのですが、なぜかこの重大なニュースはNHKも含めた一般マスコミでは報道されていません。日本企業の被害続出を防ぐためには報道は不可欠ですが、IBMはアメリカ本社も含めて、無能な集団に乗っ取られた可能性が高いのではないか。日本企業はその被害に苦しめられています。

 しかしアメリカの老舗IT企業による被害はこれだけではありません。システム市場における独占状態を利用した、不当なまでの価格の暴騰もあります。システムを更新しようとすると、法外な額の更新費用を請求され、それではと契約を解除しようとすると、これまた法外な額の解除費用を請求され、進むに進めず、退くに退けないという状況に置かれて苦しんでいる日本企業の事例も、IT専門WEBニュースに出ていました。

 トランプ大統領は、現在の世界の産業構造はIT技術が全てを先導する位置にあるという事実と、アメリカのIT企業が日本や世界の市場を独占しているという事実を直視して貿易不均衡問題を論ずべきではありませんか。IT産業は輸送する必要のない、物としての形を持たない人類史上初の新形態の産業ですが、このIT技術、IT産業が形ある物を製造する産業の最重要基盤をなしていることも認識していただきたい。IT産業も含めた全産業で比較すると、アメリカは日本に対しても大黒字のはずです。にもかかわらず、いつまでも旧来型の「物」産業だけに肩入れし続けるという偏頗な対応をとりつづけるならば、IT、AI分野では日本を抜き、アメリカに猛追しつつある中国に、覇権を奪われる日が本当に来るかもしれません。


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