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葦の葉ブログ(最新版

葦の葉通信

 
40 2018/2/16
スパコン詐欺事件の真相 1PEZY社パソコンは世界一  2PEZY社詐欺疑惑の背景 3ライブブドア事件

 

392018/1/16

侵食される日本

 

謹賀新年 2018/1/1

38 2017/12/1212/25 

在日米軍は無能者ぞろい

日馬富士問題の深層

 

『貨幣の謎とパラドックスー柄谷行人論・原理論編』出版2017/12/1

上野英信展への手紙 西日本新聞に捏造記事2017/11/24   11/2712/1

37 2017/11/13 
1 選挙雑感 2 オランダ宿 
盗み続けて20年、韓国ボスコ 11/14追記

36 2017/10/11

1「政治生命をかけた冒険」 改憲は米政府からの要請 小泉元総理と田原総一朗氏 小泉元総理と原発 10/14 追記

 35号 2017/9/10

技術が世界を変える 

34 2017/8/10  

1北朝鮮ミサイル発射  2 九州北部豪雨 3 沖縄基地問題

33 17/7/5 

東芝と安倍政権の功罪 

32 17/6/15

イコモスと国連への疑問

 

31 17/6/2 

加計学園問題の深層

30 17/5/25

北のミサイル連射の深層

29 17/5/10

諫早干拓の反公共性

28 17/4/30

東芝問題の深層

お知らせ 17/4/25

 

2717/4/22

生前退位をめぐって 

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博多駅陥没事故と歴史

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24号 2017/2/28

韓国の30万本の桜

3/2 森友学園問題

金正男毒殺事件

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記紀神話と韓国

学問は手段にすぎない韓国

江戸時代の科学

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北方領土

装飾古墳

21 2016/11/17

アメリカ国民は消耗品

20 2016/10/16

阿蘇噴火と日本の国防

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不可解な事ども

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1 禁教期を焦点化したキリスト教関連遺産の狙い

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 九国博の変化

● 熊本地震

142016/3/16

1遺体が語る真実

2サイバーセキュリティ 

13 2016/2/27

1北朝鮮の核実験と日本

2北朝鮮のミサイル

 

黄金のアフガニスタン展

12  2016/1/26

日韓合意の不可逆性

 

謹賀新年

 

11号 2015/12/26

年末の外相訪韓

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6号 15/7/28
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 ―百済から通信史

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吉田調書の真実


原発事故と巨大地震の正体


  

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葦の葉通信 40号 2018/2/16

 

   久本福子Yoshiko Hisamoto

「ふってん」を「葦の葉ブログ」と再度改名して、葦書房のサイト内に移転しました。(2/26

 

 

スパコン詐欺事件の真相

 

1 PEZY社スパコンは世界一

 

当初、本号は「選別的予算配分の罠」というタイトルで、「ふってん」2/5付けの「阪大、京大の出題ミス」で提示した問題点をさらに深く掘り下げる予定でした。具体的には目下マスコミや国会でも問題になっている、ペジー社によるスパコン詐欺事件を核に予算配分の闇に迫ろうという目論みを立てていました。この時点では、NHKや新聞などのマスコミから得た情報を基に、原稿のテーマを決めていました。ところが、原稿を書くに当たっていろいろ調べてみたところ、スパコン詐欺事件には、当初のテーマ内には収まらない、深い闇を抱えた複雑な背景がありそうなことに気づかされ、途方に暮れてしまいました。

 

いつもは書く寸前にテーマを決めるのですが、月一の更新を2回ぐらいの頻度に上げたいとの思いもあり、今回は珍しく事前にテーマを決めていました。しかし当初の目論見が崩れてしまい、途方に暮れてしまったという次第です。別のテーマに変えようかとも思いましたが、単純な詐欺事件ではなさそうなスパコン詐欺事件を放置する決断もつかず、迷いつつ、この事件を取り上げることにしました。

 

このスパコン詐欺事件が単純な詐欺事件ではなさそうだと気づかされたのは、次のWEB記事でした。

日経コンピュータ2017/12/7 PEZY社長逮捕、スパコンの旗手に何が起きたのかBusiness Insider 2017/12/6「詐欺容疑」IT業界に衝撃、スパコン開発会社PEZY齋藤元章社長の素顔

これらの記事でまず驚いたのは、ペジー社(PEZY社)が開発したスパコンが201711月発表の世界ランキングで上位の成績を獲得し、国内では理研と富士通が開発し、日本中誰も知っているあの「京(ケイ)」を追い抜き、1位の成績を記録していたということです。しかも計算速度が速いというだけではなく、省エネ性能でも世界上位を記録したという驚愕の事実が報道されていました。

 

 

電子版無料

2/17()17時〜2/20()1659

貨幣の謎とパラドックス

柄谷行人論・原理論編

一般マスコミの詐欺事件報道では、PEZY社のこの驚くべき業績は全く報道されていませんので、PEZY社はただ補助金を騙し取った悪徳企業であるとのイメージが日本中に広がっています。わたしもこの路線で原稿を書く段取りをしていましたので、コンピュータ業界では広く知れ渡っている同社の業績記事を目にした時は、頭が真っ白になるほどの衝撃を受けました。

 

しかも、PEZY社というベンチャー企業が高性能なスパコンを開発しているというニュースはこれまで見聞きしたこともなかっただけに、驚きも半端ではありませんでした。かつて京が世界最速を記録したときは、マスコミはこぞって大きく報道しましたが、PEZY社製スパコンは昨年の最速度世界ランキングで上位を記録したとはいえ、1位ではなかったからか、一般マスコミではほとんど報道されていません。しかし省エネ性能では、世界ランクの1位、2位、3位、5位をPEZY社が独占しています。

 

ちなみに20171113日に発表されたスパコン世界ランキングは以下のリンク先(英文)にあります。

TOP500(最速度のランキング)https://www.top500.org/lists/2017/11/

Green500(省エネ性能ランキング)https://www.top500.org/green500/lists/2017/11/

 

TOP5001位と2位は中国、3位はスイス、4位は日本(PEZY社)、5位から8位まではアメリカ、9位と10位は日本(いずれも富士通)

Green5001位、2位、3位はPEZY社、4位はアメリカ、5位は日本(PEZY社とExaScaler社・・PEZY社の子会社)、6位は日本(東工大)、7位は日本(NEC)、8位は日本(富士通)、9位はイギリス、10位はスイス。

 

両英文の500ランキングは、PEZY社のスパコンを導入した海洋開発機構のHPに記載されていたものですが、同機構のHPには、導入して共同開発を進めている暁光(TOP500で4位、Green5005位)以外のランキング情報は記載されていませんので、同機構のHPだけを読むと誤解を与えそうなので、英文の原典情報のリンクだけを紹介して、同機構のHPにはリンクを貼っていません。

 

このランキングは、アメリカに本部を置くスパコンの国際会議であるSupercomputing Conference SC17)が年2回(6月と11月)発表している」そうですが、PEZY社は最速度の世界ランキングでは4位だったとはいえ、省エネ性能ランキングでは、PEZY社が上位を独占しただけではなく、日本勢がトップ107つを独占しています。スパコンは膨大な量の電気を消費するらしいので、省エネ機能の向上は、最速度競争以上に重要ではないかと思いますが、PEZY社は世界トップを独走しています。

 

PEZY社(子会社のExaScalerエクサスケーラ社)の省エネ技術は世界でも例のない、スパコンを特殊な液に浸けて冷却させる「液浸冷却」と呼ばれるものだそうですが、海洋開発機構のほかに理研や高エネルギー加速器研究機構(KEK)やヤフーなどのスパコンにも採用され、Green500でも理研は1位、KEK2位に選ばれています。(ヤフーのスパコンは2016年に1位。)

 

これほど目覚ましい業績を上げているベンチャー企業を一般マスコミが全く報道しない中、20171113日に発表されたTOP500Green500において、同社が輝かしい評価を受けて1月も経たない125日に、PEZY社社長齋藤元章氏は東京地検特捜部に逮捕されました。しかも驚いたことには、1211日放送のNHK番組『プロフェッショナル 仕事の流儀』に、齋藤社長が出演する予定だったという。放送直前での逮捕、当然のことながら、放送は中止。もしもこの番組が放映されていたならば、斎藤氏ならびにPEZY社の業績も日本中に知れ渡ったはずですが、その機会は完全に潰されてしまいました。

 

さらに問題なのは、番組放映が中止されても、この番組作成のためにPEZY社を取材した際に入手した様々な資料や、同社のスパコンを撮影した映像資料などがNHKに残っていることです。特にカメラで撮撮した映像は肉眼で見るよりもはるかに鮮明ですので、世界一の性能を誇る同社のスパコンも微細に記録されているはずです。取材時には、番組で使われる何倍もの量の映像が撮影されているはずですので、同社のスパコンの仕組みをかなりの程度映像から読み取ることが可能です。現場の担当者が関知しないところで、PEZY社と齋藤社長を取り上げることになった段階から、放映不可になることはひそかに予定されており、この企画は、同社のスパコン資料を入手することが目的であったのではないか。いささか深読みしすぎの感はありますが、PEZY社の映像が外部に流れる危険性はゼロではありません。番組資料の行方にも注意を払う必要はあります。(2/17

 

斎藤氏が詐欺を働いたのかどうかは別の角度から考えてみたいと思いますが、目下のわたしの最大の関心事は、検察が斎藤氏を逮捕した結果、いかなる状況が招来されるのかという点にあります。この問題の行く末を考える格好の先行事例があります。ファイル共有ソフトWinnyを開発して、逮捕された金子勇氏です。この事件の核心については、上記の「詐欺容疑」IT業界に衝撃、スパコン開発会社PEZY齋藤元章社長の素顔で初めて知り、驚愕しています。この記事がきっかけで、WEBで関連記事を検索したところ、金子氏は、慶応大の村井純教授をはじめ、IT業界や専門家の間では、二人とは出ない超天才として知られていた人物であったことが分かりました。しかし金子氏は、7年もの長きに渡った裁判を闘った結果、最高裁で無罪を勝ち取ったものの、それからほどなく若くして亡くなられたという。

金子氏の人となりやその才能、業績などについては、東大で共に仕事をしてきた平木敬教授の次のインタビュー記事をご覧ください。

週刊アスキー 20130712日 “Winnyは金子さんの天才的な一面にすぎない”——東大 平木教授インタビュー

”Winnyは金子さんの本流じゃなかった”——東大 平木教授、稲葉准教授インタビュー722日)

 

友人の追悼文 天才、金子勇

Newsweek池田信夫 金子勇氏とWinnyとともに日本が失ったもの は、この事件の核心を簡潔に語っています。他にも多数同趣旨の記事がありますが、興味のある方はWEBで検索してください。Winnyで被害を受けたという批判記事もありますが、金子氏は、無罪を勝ち取るまでの7年間、証拠隠滅のおそれありとの理由で、パソコンを触ることを禁止されていたという。この禁止がなければ、金子氏はWinnyの欠陥を修正し、専門家が指摘するように、新しい時代の社会インフラとしてWinnyを昇華、発展させていたはずですが、その機会が完全に奪われていたわけです。

金子氏の研究が、今現在の最先端技術であったことは、Business Insiderの次の記事に記されています。「金子氏が最後に取り組んでいた研究の1つはニューラルネットワーク、つまり今日の最新AI研究に繋がる技術だ。また、Winnyそのものも分散ファイル処理の技術であり、今のブロックチェーンに代表される非中央集権的な思想を持っていた。」

金子氏は、SkypeLINEを可能にする技術を開発したのみならず、AIやブロックチェーン技術に直結する最先端領域においても、天才的な才能に裏打ちされた斬新な発想で、未踏の世界を開拓しつつあったわけですが、無罪が確定し、東大に復職して心置きなくパソコンが自由に使えるようになって、半年余りで急逝されています。なおニューラルネットワークとは、人間の脳の仕組みを人工的に再現、再生させる研究、技術ですが、AI研究の核心的部分。金子氏はこの分野での業績を形にする前に急逝されていますが、この事件の時間的流れの概略は、以下のとおりです。

20014月、東大に特任教員として採用、2002年、Winny開発、20045月、起訴、20111220日、最高裁で無罪、201212月、東大復職、201376日、急性心筋梗塞にて42歳で急逝。

IT技術、AI技術は一人の天才の登場で世界が変わる可能性を秘めた領域ですが、金子氏はその天才の一人だったのではないかと思います。早すぎるその死によって、金子氏の才能が存分に開花する機会は永遠に断たれてしまいました。

同じことが、PEZY社と齋藤氏の身にも起こらないとも限りません。むしろ、同様の「効果」を狙っての逮捕ではなかったのかとの疑惑も拭いきれませんが、現在知りうる情報下では、仮にそれがタメにする情報として意図的に流されているものも含まれているにせよ、補助金提供者である公的機関や政権側とPEZY社や斎藤氏側にも、疑惑を招く状況にあったことも事実のようにも思われますので、こちらの方にも目を向けたいと思います。

 

2 PEZY社詐欺疑惑の背景

 

スパコン詐欺事件の疑惑にもとになったのが、PEZY社に提供された100億円(予定分も含む総額)もの補助金です。一社だけで100億円もの補助金とは、ほとんど例はないのではないか。しかもこの補助金は、経産省、文科省両省から出されたダブル補助です。いくら先端的な技術開発に挑戦し、実績を上げているとはいえ、なぜPEZY社一社に集中したのか、誰もが不審、不信を抱かざるをえないのも事実です。

 


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経産省の担当者の話では、スパコン開発では該当者はPEZY社以外にはなかったので、結果として同社一社に集中することになったのこと。これが事実なのかどうかは分かりませんが、WEBに掲載されていた経産大臣の国会答弁によると、業者選定に当たった56人!もの選考委員の内、確認の取れた委員52人からは、選定は公正に行われたとの回答を得たとのこと。大臣のこの答弁は、スパコンでも安倍政権による「忖度」(特定業者への超法規的な優遇)があったのではないかとの疑惑に対する反論だったと思われますが、この反論だけでは疑惑は拭えないでしょう。

 

どれほど優秀な頭脳の持ち主であっても、いとも簡単に返済無用の巨額の資金が次々と手に入る環境下におかれるならば金銭感覚も狂い、対象事業以外にも補助金を使うという違法行為を、さしたる抵抗もなく犯すことになるであろうことは容易に想像できます。仮にこの詐欺疑惑が冤罪であり、PEZY社の潔白が証明されるという事態の大転換がありうるとしても、この補助金の選定手法の異常さは不問に付すわけにはいきません。

 

PEZY社のスパコンがいかに優れていても、スパコンは、新しい研究開発、新しい産業を生み出すための道具にすぎません。省エネにも優れた超高速のスパコンを使って何かを生み出すための研究を促すために、他企業や大学等にも予算を回すべきであったはずです。秒進分歩の時代では、政治家や官僚はもとより、専門家ですら的確な選別は非常に難しい。一点集中的に選別せずに、もっと緩やかに、広く予算を配分すべきではないか。選別する度に何十人という委員を選び、その分事務処理量も増えて、研究外費用が膨らむ一方。非常に無駄。

 

スパコンそのものも商品になりうるとはいえ、超高速のスパコンを必要としているのは欧米などの先進国か中国ぐらいですが、それらの国々は全部自前開発です。IT大国のインドやIT化を目指すサウジもスパコンを導入していますが、欧米以外ではごくごく少数。IT大国の韓国はなぜか、スパコンランキングには入っていないようですが。日本国内でもPEZY社のパソコンを導入しているのは全部公的な研究機関のみ。Yahooは、PEZY社の冷却装置は導入しましたが、スパコン本体は超格安で自作しています。その経緯とスパコンの実用例も合わせて、Yahooのスパコン担当者が次のように解説しています。AI企業へ舵切るヤフー、深層学習スパコン「kukai」の驚くべき"コスパ"[直撃インタビュー]

 

Yahooによると、PEZY社の冷却装置やスパコン本体や設置工事など全て込み込みで、4億円で作ったという。あり得ない金額ですが、企業ならではのコスト感覚は見事。これで世界2位(PEZY社の貢献の大きい省エネ部門のみ。高速度では100位にも入っていないようですが。)を獲得したわけですが、PEZY1社に100億円も補助していたとは、経産省、文科省は税金の無意味な無駄使いを心底恥じるべきでしょう。優秀であれば、限られた予算下でもコストパフォーマンスも考えて、様々な工夫も凝らすはずです。コストを下げなければ、商品とはなりえないからです。

 

とはいえ、そもそもスパコンにのみ特化した(正式名称はもうすこし普遍性のあるものだろうとは思いますが)補助金という枠組み自体に問題があります。安倍政権の意向により、スパコンに特化することで、PEZY社に補助金が集中するように意図的に枠組みを設定したと勘ぐることもできますが、今回は、もう少し問題を広げて考えてみたいと思います。

 

税金を無駄なく有効に使うためには、然るべき基準を設けて、最も有効だと思われる企業や機関なり、事業なりに選別的に投資することは絶対不可欠であることには誰も異存はないはずです。しかしこの選別が、確たる根拠に基づき、公正公平になされることは、ほぼ100%ありえぬことも歴然たる事実です。にもかかわらず、国の財政が厳しくなる中、税金の選別的配分は強化される一方です。選別的配分の強化とは、税の配分に際して、政権や官僚の意向がより強く反映されるということであり、政治家や官僚の権限がより強まることを意味しています。

 

PEZY社の事例は、その典型例の一つではないかと思われます。スパコンに限定せずにもっと対象を広げていれば、PEZY社以外のベンチャーにも補助金が渡った可能性は高い。選考委員はすでに設定された枠組みの中でしか審査できず、審査委員の権限はごく限られたものでしかありません。実質的には、政治家と官僚が決めているといっても過言ではないはずです。結果として、非政治的であるべきはずの科学技術や学術分野においても、偏りが生じることは不可避とならざるをえません。

 

大学の研究予算においても選別的予算配分が年々強化されていますが、この分野でも偏りが生じています。その偏りの最たる例は、選別対象がその時々のトレンドに左右されしまうということです。しかもその最大の問題は、このトレンドが深い学術的洞察に裏打ちされたものではなく、マスコミなどによって生み出された社会的なトレンドだという点にあります。ITがトレンドになればITに集中し、バイオがトレンドになればバイオに集中し、IT関連の研究にはほとんど予算が回らないという。この選別的予算の偏りについては、スタップ細胞捏造事件に関する、日経新聞の連載記事に書かれていたものですが、現在も当時とはほとんど変わっていないはず。むしろ選別強化がより強まっているのではないか。

 

言いかえるならば、科学技術や学術分野への予算配分においても、政治家や官僚の意向の入る、非学術的予算配分がさらに拡大しているということです。前号でご紹介しました、福岡市博物館が作成配布している、高麗軍の襲来という歴史的事実を隠蔽した元寇防塁マップも文化庁の協賛事業、文化庁から予算が出ているということです。これは予算額としては少額だとは思いますが、かつてはこんな予算の選別は皆無でした。

 

実は、弊社にとっては看過できない偏向がなされていた、福岡市図書館で開催されていた上野英信展も文化庁の協賛事業、文化庁から予算が支給された展覧会でした。この数年前に開催された菊畑茂久馬展も、おそらく文化庁に認定された展覧会だったのではないかと思います。というよりも、選別的予算配分強化の流れを受けて、文化庁は、国公立の博物館や美術館などの文化事業への予算配分に、何らかの形で関与を強めているのではないかと思われます。

 

2011年は、福岡が生んだ天才的演劇人、川上音二郎の没後100年(191111月死去)に当たる年でした。二人が暮らした神奈川県茅ヶ崎市の美術館では、音二郎の没後100年・貞奴生誕140年を記念した展覧会が開催されたそうです。福岡市では全く話題にすらなっていませんでしたが、同展開催にあたり、同美術館から関連書籍の販売をしたいとのご連絡をいただき、音二郎没後100年であったことを初めて知った次第です。(弊社刊・井上精三著『川上音二郎の生涯1300円+税)

 

茅ヶ崎での音二郎展と同じ時期には、福岡市博物館では「日本とクジラ展」が開催されていました。福岡市美術館では何展が開かれていたかは全く記憶にはありませんが、「クジラ展」はその余りの唐突さゆえに今も記憶に鮮明です。この時期になぜ福岡市で「クジラ展」なのか、全く脈絡はありませんが、唯一動機らしきものはありました。地元の某出版社がクジラに関する書籍を出版していたことです。両者の一致は、とても偶然だとは思えません。

 

美術館や博物館が地元関連の展示ばかりをしていたのでは世界が狭くなってしまいますが、浮沈はあれ、音二郎・貞奴は世界を股にかけて活躍した大演劇人です。福岡ではもとより日本でも、音二郎を越えるほどのスケールの大きな演劇人は、未だ出ていないのではないか。その足跡を振り返ることは、縮小気味の日本人の世界に開放感を与えてくれるはずです。しかし地元福岡では、恒常的な資料収集、研究すら不足しているのか、音二郎=オペケペーという程度の理解しかありません。オペケペーは音二郎のごく一部です。偏向的な事業選別に傾く関係者の責任だといわざるをえません。

 

弊社を例にこの問題を論じすぎると、特殊な問題になりそうなのでこれ以上は書きませんが、選別的予算配分が強化されると、想定もしなかった偏向が生じうるという一例です。

 

3ライブドア事件

 

では再びスパコンに戻りますが、PEZY社の詐欺事件問題を考える際の非常に有効な参考事例があります。ライブドア事件です。この事件は20061月、3億円の赤字を50億円の黒字にみせかけたとする粉飾決算の疑いで、検察が強制捜査に乗り出し、堀江社長を逮捕したことに端を発していますが、この事件の不可解さは、事件の捜査渦中に、ライブドア元幹部が那覇市内のホテルで「自殺」したことも含め、真相を解明するよりも真相を隠蔽する力学が非常に強く働いていることです。

粉飾疑惑の不当性については、元幹部の熊谷史人氏は次のように述べています。

ライブドア元幹部が語る、粉飾に仕立てられた(?)“事件”Business Journal 2012.11.19) 東芝は7000億円以上もの赤字を隠蔽した文字通りの完璧な粉飾決算でしたが、誰も罪を問われなかったこととも考え合わせると、検察の動きが、法の公正な執行に基づくものではないことがなお一層、明白となります。

さらに驚いたのは、次のブログです。今だから、あの「ライブドア事件後」の真実について話そうと思う=高岳史典(MONY VOICE2018/1/23)

高岳氏は当時、アメリカのアリックスパートナーズという事業再生コンサルタント会社日本法人に勤めていたそうですが、突如、ライブドアの担当になったのがきっかけで、ライブドアとの関係が生まれ、その後、同社の社員にまでなったという経歴の持ち主です。アリックスとライブドアとの関わりは、高岳氏によると、「事件で大幅に下落したライブドア株を買い占めたいわゆるハゲ鷹ファンドは、ライブドアを解体して資産を切り売りしようとしていました。アリックスはそのファンドに雇われて、資産査定をしていたわけです。」ということで、同氏はライブドア解体のための査定担当になったというわけです。

ライブドアがハゲ鷹ファンドの餌食になったという指摘は他にも見かけますが、そのファンドの代理人が直接その事実を語った例は他にはないのではないか。しかし高岳氏は、主要幹部が逮捕された後のライブドアで、当時事業部長であった出澤剛氏(現LINE社長)に会ったことで、高岳氏にとってもライブドアにとっても、運命の大転換となる大決断を下すことになります。明晰で的確な現状分析と今後の方向性を示した資料を自ら作成した出澤氏との最初の会見で、高岳氏は、解体ではなく再生したい!との確固不動の強い思いに襲われたという。高岳氏のこの不動の熱い思いが伝わったのか、アリックス社としてもこの方針で進めることになったという。

ところが、200610月に、ファンドによって査定結果を報告するために開かれた取締役会では、当初の予定を変えた再生報告にファンドは激怒、アリックスはその場でクビになったという。ところがその後、別のファンドがこのファンドからライブドア株を買い取り、その新ファンドからアリックスが再び呼び戻されて、ライブドア再生へと動き出したという。そして200741日、出澤剛氏を社長として新生ライブドア(ライブドアホールディングス・LDH)が誕生。

さらにその3年後の20104月、LDHは、韓国のIT企業NHN(韓国の公的年金公団が筆頭株主の韓国の準国営企業)に全株63億円で買収される。つまり、二番目のファンドによってLDHNHNに売却されたということです。この時のLDHは、営業利益率10%という超優良企業!になっていたという。出澤社長がNHNの社長と共に買収会見で明らかにした数字なので事実だと思います。ちなみに営業利益率は3%が標準、5%は優良とのことですので、10%がいかにすごいか、説明不要でしょう。だとすれば、63億円は余りにも安いのではないか?この安さも問題ですが、驚異的な営業利益率10%を可能にしたライブドアの能力の高さにまず注目すべきでしょう。

ライブドア社員の能力の高さは、LINEの社長をはじめ同社の各部門の幹部もライブドアの社員であることや、他社に転職した元社員の多くが転出先の社長や幹部に就いていることからも推測できますが、残った社員や高岳氏のように新たに入った社員たちも含めて非常に優秀な人材が揃っていたということです。小林佳徳「社長が逮捕されて上場廃止になっても会社はつぶれず、意思は継続するという話」(1)〜(10

社長逮捕後、経営の柱であった広告が激減する中、大物外資の広告受注に成功したばかりか、その後のネット広告の新機軸となる広告手法を打ち立てた新入り社員の高岳氏と、それを支えたライブドアの技術陣の奮戦ぶりは有料ブログになっていますが、社長なき後も、激しいパッシングの嵐に見舞われながらも、日々の業務に真摯に向き合ってきた社員たちのたゆまぬ努力があったればこそ。この優秀な社員たちは全て堀江氏が直接面接して採用したという。当時は300人ほど社員がいたそうですが、その大半は技術者だったという。騒動で一部は退職したそうですが、堀江氏は、カネには代えがたい貴重な財産をライブドアに残したということです。

ただ再生ライブドアの成功は、社会の顰蹙もものともせず、堀江氏がひたすら膨張路線を突っ走っていたのに対し、社長逮捕後は縮小せざるをえなかったという事情があったにせよ、本来のIT関連事業に特化したことも功を奏した大きな要因であったと思われます。

ということで、LDHが営業利益率10%もの偉業を達成したのも、ライブドアに在籍する優秀な人材によって可能になったものでした。日本では余り知られていないゲームサイトとNAVERという検索おまとめサイトを運営していただけのNHNは、たった63億円で、優秀な人材を含む日本の超優良企業を手にしたわけです。ファンドは日本企業にではなく、韓国企業に売ったというところに注目すべきです。おそらく最初のファンドも、解体したライブドアを韓国企業に売却する予定になっていたのではないか。東芝メモリーは、アメリカのファンドと韓国LGを株主に選定していたので、社長も逮捕されず、粉飾決算も犯罪として立件されなかったのでは、という想定も成り立ちそうです。

ライブドア事件を振り返ると、PEZY社の近未来もありありと見えてきます。しかもLDH を傘下においたNHNは、無料通話やメールが可能なLINEで一躍顧客の拡大に成功しますが、このLINEの技術には、捜査当局に抹殺された金子勇氏がWinnyで開発した技術も使われているはずです。なおLDH2013年にLINEとしてNHN各社と統合。Winnyの技術的特性については次のリンクをご覧下さい。

Winny開発者の裁判に村井教授が証人として出廷、検察側の主張に異議三柳英樹 2006/02/16

いざ書き始めると、Winnyやライブドアにまで対象が広がってしまいましたが、振り返ってみると、いずれの事件も類似していることに改めて驚かされます。わたしは今回初めて、PEZY社事件がきっかけで、金子勇氏とWinnyやライブドア事件の詳細について知ったばかりですが、日本の警察や検察が、自国の優秀な研究者や企業を潰すことを目的に動いているのではないかとの疑惑すら覚えます。まだまだ事件の深層にまでは迫っていないとの思いも残りますが、かなり長くなりすぎましたので、ひとまず今回はこれで終わることにいたします。

 なお「ふってん」でもお知らせしていましたが、『貨幣の謎とパラドックスー柄谷行人論・原理論編』の電子本無料公開

2/17()午後5時〜2/20()午後459分の3日間です。

 

電子版無料

2/17()17時〜2/20()1659

貨幣の謎とパラドックス―柄谷行人論・原理論編

本書は、子本を出していますが、電子本の、ちょうど仮想通貨を論じた最後の当たり、紙本でいうと約6ページ分が、23行ずつ改ページされるという奇妙な不具合が発生していました。読者の方は、最初の2行での改ページでもう終わったと思われて、その先は読んでおられない方もあったのではないかと思います。お詫び申し上げます。」(「ふってん」より)

今回の無料公開は、上記不具合のお詫びを兼ねたものです。本書は、柄谷行人の著作の解読をとおして、貨幣の謎とともに資本主義の正体とその行く末までをも解析したものですが、状況論的な分析ではなく、純理論的にアプローチしたものです。是非、ご一読ください。

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