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2018/6/8
森友文書と財務省
久本福子


 いささかうんざりしながらも、今回も森友学園問題を取り上げることにしました。というのも、前回、人間公害、籠池夫妻を公開したものの、何か釈然としない思いが残っていたことと、大幅な値引きで売却するきっかけとなった、2016年3月11日に「新たに見つかったゴミ」に関しては、もっと詳細に説明する必要を感じたからです。

 まず釈然としない最大の理由は、財務省はなぜ、近財局が作成した決裁文書や交渉記録に記載されている事実を、そのまま国会に開示しなかったのかということです。事実そのままを開示していれば、時価で確定していた当初の地価の約14%に当たる、1億3400万円にまでなぜ値引きせざるをえなかったのか、その根拠が明確に示される結果になったからです。のみならず、決裁文書や交渉記録がそのまま公開されていれば、損害賠償請求をするなというのであれば、ゼロ円で売れ!と厳しく迫っていた、理不尽で傍若無人な籠池夫妻に対してよくもこの値段で説得したものだと、近財局の努力に対しては、おそらく誰もが賞賛することはあっても、非難することはなかったと断言します。

 にもかかわらずなぜ財務省は事実を開示せずに、ゴミ(産業廃棄物=産廃)撤去費用だけでなぜ8億円もかかるのか、8億円ものゴミ撤去にはトラックが何千台も必要になるが、そんな事実はあるのかなどという、不毛な紛糾のタネを野党に提供しつづけたのか。のみならず財務省はなぜ、この問題の本質を記録した貴重な文書類を廃棄したと答弁し、果ては文書の改竄にまで突き進んでしまったのか。これはわたしにとっても大きな謎でした。しかし先日、財務省が実施した文書改竄問題調査報告書が発表され、その要旨が読売新聞に掲載されているのを読み、この謎がやっと解けました。

 一言でいえば、財務省本省と近財局との間には大きな断絶があったということ。具体的には、近財局は文書改竄には猛反発したということです。自殺者が出たほどですから、近財局の反発は相当大きかったと思われますが、財務省は改竄業務からは近財局を排除して進めたという。つまり財務省は、この問題の経緯については最も知悉し尽くしている近財局を排除して、国会を瀕死状態にまで陥れているこの重大問題に対応してきたということになります。

 おそらく佐川氏を含め財務省の幹部は、誰一人として、森友学園関連文書をまともに読んではいないはずです。近財局を排除したのであれば、本省側で関連文書を読み、問題の経緯を把握すべきであったはずですが、その基本作業を行った形跡は皆無です。膨大な量の関連文書を読み込むのは簡単ではないにせよ、せめて大幅値下げを決定して成立した「国有財産売買契約書」ぐらいは読むべきでしたが、それすらなされた形跡は皆無です。この契約書には、なぜ8億円も値引きせざるをえなかったのか、この値引きによって国が被ることになるであろう被害をいかに防ぎ止めようとしたのか、近財局のギリギリの判断が条文として明記されていますが、本省はそれすら読んでいません。これでは死者も浮かばれません。

 この大幅な値引きに至る経緯は、財務省・森友学園決裁文書の最下段にある、
森友学園との交渉記録」の本文4分冊の4分冊目(2015-12-2〜2016.6-20)に詳細に記録されています。森友学園と近財局が交わした「国有財産売買契約書」も、この4分冊目の最後の方に掲載されていますが、本契約書の第30条には、第1項〜第9項の別項及びイロハの枝項まで加え、値引きの根拠となった当該土地の瑕疵について、非常に詳細かつ具体的に明記されています。瑕疵について非常に詳細かつ具体的に明記することで、学園側はこれらの瑕疵のあることを承知の上で土地を購入することと、瑕疵については学園側が対処し、これらの瑕疵については国に対しては一切請求できず、国はこれらの瑕疵全てを含む現状有姿のまま学園に売却することを条文として明記しています。売却後の不当な言いがかりを封じるための条文です。また31条、32条には、「双方とも一切の債権債務を有しないことを確認する」という損害賠償訴訟阻止のための文言も念を入れて明記されています。

 契約書には土地の瑕疵について非常に詳しく記されていますが、人間公害、籠池夫妻に書いた瑕疵の概略でも十分だと思いますので、以下に転記いたします。
 ・汚染土壌対策費(公募時に明示)
 ・もともとあった地下に埋設されているゴミ(産業廃棄物)の撤去費用(公募時に明示)
 ・資料に示されていた以外の場所から、新たにゴミが見つかり、この撤去費用も加算。
 ・資料に示されていた以外の場所から土壌汚染。この対策費用も加算。
 ・軟弱土地の補強費用
 ・工事の遅れによる開校の遅延に対する損害も加算。
 ・工事が遅れた結果、熊本地震に遭遇し、工賃、資材費が高騰したことで受けた被害に対する損害も加算。
 
 以上の主だった瑕疵に加え、2016年3月11日の「新たなゴミの発見」は、近財局にとっては非常に大きな負担となりました。というのは、「新たなゴミ」は、すでに見つかっていた産廃ゴミの処理方法をめぐる、新たなトラブルの結果として「発見」されたものであったからです。土地に埋設されていた産廃ゴミについては、どのような方法で処理するかについて、2015年9月4日に大阪航空局と学園の業者とが協議した記録が、2018年3月15日付け文書の後に唐突に挟みこまれているのですが、この協議記録は、近財局にとっては非常に不利になる内容となっています。というのは、産廃ゴミを場外撤去すると費用が高騰し、ゴミ撤去費用だけで地価を上回るおそれがある。撤去費用(瑕疵)が地価を上回る場合は、土地の貸し付けはできなくなり、契約取り止めとなるので、産廃ゴミは場外撤去はせずに、場内処分とするとの取り決めが大阪航空局と学園側業者との間でなされたことが記録されていました。

 つまり産廃ゴミはトラックを使って場外に撤去されたのではなく、場内処分されたということです。一部は埋め戻され、一部は建設の邪魔にならない場所に仮置きされることになっていたのですが、その仮置き場に予定されていた土地が、資料掲載外の土壌汚染地であることがボーリング調査で判明し、汚染土壌の処理をする必要からゴミの仮置き場として使えなくなってしまいました。結果、ゴミの場内処理ができなくなってしまい、「新たなゴミの発見」として大騒動となり、校舎の建設工事もストップするという事態に立ち至りました。近財局は当初、大阪航空局と業者間でゴミの場内処理の取り決めがなされていたとの報告は受けていなかったようですが、籠池夫妻は当然のことながら近財局の責任を問い、工事がストップしているのは、近財局がゴミの場内処分を指示したからだと罵倒しまくり、国の責任でゴミを全て撤去し、2017年4月の開校に間に合わせるように工事を進めろと責め立てています。

 籠池夫妻は近財局を直接罵倒するだけではなく、近財局と業者が結託して自分たちをだましたと、あちこちに触れ回ります。そしてついに、籠池夫妻は東京の本省訪問を決意。政治家も当てにならず、近財局も信用できず、2016年3月15日、夫妻は財務省の国有財産管理課にまで出向き、近財局は自分たちの都合の良いことしか本省には報告しておらず、本当のことが伝わっていないと思い、参上したと来訪の理由を述べるとともに、近財局と業者が結託して我々をだましたと訴えています。他にも近財局の不当な対応で多大な被害を被っていると、夫妻は縷々説明しています。

 夫妻から本省訪問することを聞いた鴻池議員の秘書は、全く意味がないので止めるように説得しますが、全く聞く耳を持ちません。そこで秘書は近財局に出向き、夫妻の本省訪問を思いとどまらせることはできないか相談していますが、夫妻の行動を止めることは誰にも不可能な難事です。

 夫妻は本省訪問の翌日も休まずに近財局を訪ね、ゴミ問題で工事がストップしていることの責任を厳しく問い、損害賠償裁判をすると脅します。以降も、毎日のように夫妻の抗議行動が続きます。この抗議行動が続く中で、土地の購入の話が出てくるわけですが、正式な土地購入の協議は3月24日、弁護士同伴で夫妻が近財局を訪問して始まりました。この弁護士は資料では黒塗りで名前は不明ですが、稲田前防衛大臣の夫だと言われている人物らしい。

 弁護士は工事がストップし、膠着している現状を打破するために、夫妻に対して2つの提案をしたという。1案は、多額の費用を投じてでも事業を続行する。その際、増加分の費用は国に請求するが、全額が確実に補填されるかどうかは不透明であり、リスクが大きいので推奨できないと説明。2案は、事業を中止し、工事もストップして、損害賠償請求を国に求める。

 弁護士は、リスクが最も少ないとして2案を強く奨めたが、籠池氏は事業の続行を希望。詢子夫人は中止し、国に損害賠償を求めることを希望していたという。いつもセットで行動してきた、一卵双生児のような夫妻に、初めて意見の相違が発生しています。しかし理事長である籠池氏の考えが優先され、事業続行となったのですが、この際、土地を買い取りたいので、安価な価格を提示してほしいと弁護士から正式の提案を受ける。

 3月28日、弁護士が近財局を訪問。新たな汚染土壌と異臭が発生したとの報告あり。ゴミの場外撤去もできぬまま工事がストップしている。来年3月までの竣工に間に合わせるように国の方で対応できないのかとの申し入れもあり。本来ならば地主である国がなすべき責任があるが、予算がないの一点張りで国は放置し続けてきた。開校にまで持って行くには学園側で処理するしかないが、そのためにも土地を買い取りたい。

 以上のような申し入れに対し、近財局は売買を検討したいと回答する。弁護士は、売買がまとまらなければ、学園による損害賠償請求は避けられない。これを避けるためには、買い取り可能な安価な価格を提示してほしいと要望。

 その後も籠池夫妻による近財局への抗議行動は続きますが、弁護士を交えてての土地売買交渉も続きます。そして6月1日、ついに近財局は、学園側の受け入れ可能な土地の売価、1億3400万を示し、学園も了解。契約書の一部文言の修正作業などを経て、6月20日、土地の売買手続きはやっと完了しました。

 以上が、土地売買に至る経緯の概略ですが、3月11日の「新たなゴミの発見」までは、籠池夫妻は、契約書の内容を完全に無視して、連日のように近財局を訪問し、年額2730万円の貸付料が高いといって、減額を要求し続けました。訪問できない時は、夫妻は近財局に一日に7度も8度も電話をかけて、彼らの身勝手な要求を繰り返し伝えていますが、電話でのやり取りの記録も全て文書として残されています。近財局の職員たちの業務を考えると、夫妻はまさに人間公害と呼ぶしかない存在であることには、誰も反対はしないはずです。

 夫妻の攻撃は近財局にとどまらず、自分たちが依頼した弁護士に対しても向けられていました。新ゴミが発見されるまでは、夫妻はもっぱら貸付料の減額を要求し続けていましたが、弁護士はそれに対して、近財局は契約書に従って動いているので、いいくら抗議しても勝ち目はないと言ったとかで、大喧嘩になったという。土地の購入に方針転換した際には、弁護士の立ち会いは不可欠ですが、籠池夫妻は、弁護士が63万円という非常に高い請求書を平然と送りつけてくると、弁護士の冷血ぶりを訴えるためだけに夫妻は近財局を訪ねています。時間単位で請求してくるので、非常に厳しい。血も涙もないとまで訴えていますが、近財局は、土地の売買契約は弁護士なしにはできないので、こちらから弁護士を訪ね、極力費用の発生を低くする努力をしますと学園側への協力を約束しています。

 ここまでしてやっと土地の売買契約にまでこぎつけました。近財局の血のにじむような努力を称えても、非難する理由はどこにも見つかりません。また籠池夫妻の口を通して、昭恵夫人のみならず、多数の自民党の国会議員の名前が挙がっていますが、昭恵夫人も含めて、貸付料の減額に寄与した政治家は皆無です。籠池氏は契約書に押印し、公正証書まで作成し、自ら受諾した年額2730万円の貸付料が高すぎるといって、誰彼構わず減額を訴え続けてきましたが、貸付料は1円たりとも減額されなかったからです。

 この契約は、資金不足という籠池氏側の要望で、10年後の売買予約権付き貸付という特例的な貸付方式をとっていますので、籠池氏にとっては貸付料が重大問題となっていました。にもかかわらず籠池氏が契約書に押印したのは、高いといってなかなか契約に押印しない籠池氏に対して、近財局が契約解除を求めたことからやむなく押印したと思われますが、籠池氏は押印はしたものの、はなから契約内容を遵守履行する気は全くなかったわけです。

 籠池氏が大物政治家の名前を次々挙げて圧力をかけたものの、貸付料は1円も減額されませんでしたが、この地価をめぐって大変化が起きたのは、「新ゴミ」発見がきっかけでした。すでに述べたように、産廃の場内処分が不可能になり、工事がストップしたものの、この事態に対して、予算がないことが最大の理由で、近財局が具体的な解決策を示すことができなくなったことによるものでした。唯一の解決策は、大幅な値引きしてでも、土地を学園側に売却し、地主としての国の責任返上すること=籠池夫妻との関係を断ち切ることでした。それ以外に解決策があるというのであれば、野党でもマスコミでも、具体的に示すべきでしょうね。 

 また稲田議員の夫が学園側の弁護士であったことも政治的な配慮の源泉の一つであるかのように野党は主張していますが、すでにご紹介したように、弁護士は夫妻から非難されながらも、きわめてビジネスライクにお務めを果たしただけであったことも明らかです。わたしは正直なところ、稲田議員には余りいい印象を持っていませんが、事実は事実として感情で歪めずに認識すべきだと思います。

 以上のように、交渉記録を見ると、土地の貸付料も売買にも政治家の影響力は皆無であったことは明白ですが、本省の財務省では、交渉の経緯の具体についてはほとんど無知のまま、政治家などの名前も消去したという。無知ゆえの行為であったわけですが、安倍政権への配慮によるものであったことは言うまでもないでしょう。安倍政権下で創設されたらしい内閣人事局が、各省庁幹部の人事権を握っているが故に、財務省幹部が事実の確認よりも政権への配慮を優先したというのは、不可避の事態だったでしょうね。政権の顔色ばかりをうかがうようなお役人を作る、内閣人事局は廃止すべきではないでしょうか。出世には無縁に思われる地方の出先機関(近財局)のお役人たちは、実に誠実に真摯に職務を遂行しています。

 ところで、資料の原文を読まずに勝手な解釈をしているという点では、野党もマスコミも同罪です。特に、資料の断片だけで騒動の発端を作った朝日新聞の、事実誤認による報道で社会を混乱させた責任は重大です。朝日新聞は、財務省が公開している全資料を虚心に読み込んだ上で誤報を詫び、この問題の真実を伝える責任があるはずです。

 野党もまずは、資料の原文そのものを読むべきです。資料を読まずに、証人喚問要求をするなどもってのほかです。国会答弁などから推測すると、公開資料の原文を読んでいないのは与党自民党議員も同様だろうと思われます。全資料を読む時間がなければ、せめて「1.貸付決議書1「普通財産決議書(貸付)と「森友学園との交渉記録」の本文4分冊の4分冊目(2015-12-2〜2016.6-20)だけでも読んでいただきたい。これだけでも、この事件の真相を知ることは十分に可能です。与野党議員もマスコミも、怠惰は許されません。

 そして人間公害籠池夫妻を相手に、欠陥だらけの土地をどう処分すべきであったのか。与党も野党もマスコミも、我々全国民も真剣に考えるできではないかと思います。それ以外に、この問題の真の解決はありえません。

 一方の加計学園問題では、加計理事長と安倍総理が面談したとの情報をめぐり、非常に後味の悪い展開を見せています。わたしはこのニュースを初めて知った時は、古くからの親友であっても、獣医学部開設については、ゴルフをしながら、あるいはバーベキューをしながら話したのではなく、正式に官邸に出向いて話をしたことに対しては、加計理事長のこの事業にかける真剣度とともに、両氏とも公私のけじめをきちんとつけていたと好印象すら持ちました。総理大臣に直々に面談ができたというのは、両氏が親しい友人であったがゆえであったことは否定できませんが、それは偶然の巡り合わせと言うべきだろうと思われます。しかし総理も加計氏も面談の事実を否定しました。愛媛県も今治市もウソの情報に煽られた形になっていますが、どちらが真実にしろ、後味の悪さだけが残る結果となっています。残念です。


前編:人間公害、籠池夫妻


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