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葦の葉通信 30号 |
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久本福子 北のミサイル連射の深層 5月21日、北朝鮮がまたもやミサイルを発射しました。先週に引き続いての短期の連射です。日本政府や国連をはじめ海外の反応は例によって例のごとく、儀式化したパターンを繰り返していますが、非難声明を出すだけでは、全く何の意味もありません。経済制裁もほとんど効果を上げていないことは、莫大な費用が必要なミサイルの連射が証明していますが、この問題をめぐってもっとも重要なことは、北朝鮮のミサイルはどこを標的にしているのかということです。 中国やロシアを標的にすることは100%ありえないことは明白です。もし仮にわずかでもその可能性があれば、中露とも北朝鮮を支持、支援することはありえず、容赦なく北朝鮮を叩き潰すはずです。少なくとも、緩衝地帯として北の体制は温存しつつも、核、ミサイル開発は実力をもって阻止、破壊するはずです。それをせずに、むしろ北支持で一貫しているということは、中露とも北が両国を攻撃することは100%ありえぬことを確信しているからです。 ロシアはソ連時代にはある時期まで北を直接支援してきましたが、現在の北の最大の庇護者は中国であることは世界が認めるところです。ここで問題なのは、中国の北支援が経済的な領域だけではないということには、ほとんど焦点が当てられていないということです。北の核やミサイル開発はアメリカがひそかに支援しているとの情報もありますが、もし仮にそうであれば、北の核やミサイルが中国にも向けられる可能性はゼロではなくなります。仮に1%でもその可能性があれば、ロシアはもとより中国も座視するはずはありません。中露が北を陰に陽に支持、支援してきたのは、北の軍需技術を支援しているのはアメリカや親米勢力ではないことを証明しています。ではどこか。中国以外にはありえぬことは明らかです。 実は中国は、1970年代にはパキスタンへの核開発支援に乗り出し、長期にわたってパキスタンでの核開発を進め、同国を核保有国に仕立て上げたという。これは、故深田祐介氏が20年ほど前に出版された『激震東洋事情』(文春文庫)に書かれていたものですが、同書によれば、中国は技術者を派遣して、手取り足取りしながら核開発をイロハから教え、核実験のボタンも中国人技術者が押したといわれているほどの熱の入れようだったという。さらに加えて、中国は同国に、核弾頭搭載可能なミサイルまで送り込んだという。のみならず、中国はパキスタンに対してミサイル開発まで指導し、ミサイル発射実験も成功させたという。当時のパキスタンは世界最貧国の一つであり、物乞いの群れが国中に溢れたていたわけですが、その国情とは余りにもかけ離れた、中国の強力な支援を受けての核、ミサイルによるパキスタン軍の軍事力増強。今の北朝鮮にそっくりです。 とはいえ、中国はパキスタンに対しては軍事支援だけではなく、ダムや火力発電所を建設し、原発まで輸出しているそうですので、少なくとも電力事情では民生向上にも協力はしてきたともいえますが、中国がこれほどパキスタン支援に力を入れてきたのは、中国の宿敵ともいわれるインドへの威嚇、恫喝が狙いです。パキスタンとインドとは、1947年にイギリスの植民地から独立する際、分離独立して以来、国境問題などで紛争が絶えず、3度も印パ戦争を繰り返すほどに修復不能な対立関係にあります。中国はそこに目をつけたわけです。 1950年から始また中国政府による残虐非道なチベット弾圧に耐え切れず、1959年、ダライラマ14世はインドに亡命し、チベット亡命政府を樹立。中国がインドを目の敵にするのは、インドがダライラマ14世の亡命を受け入れ、チベット亡命政府を保護してきたことが最大の要因ですが、中国は1962年、インドにまで攻め入り、中印戦争が勃発。中国は武力ではチベット亡命政府を破壊することはできませんでしたが、インドの領土の一部を奪い取っています。自国の利益をのためなら手段を選ばず。 インドは中印戦争では大敗し、甚大な被害をこうむりましたが、チベット亡命政府を追放せず、今も保護しつづけています。チベットは中国文化圏ではなく、インド文化圏下でその長い歴史を刻んできました。チベット仏教も直接インドから受容し、発展させたものです。チベット文字も同様インド由来、漢字とは全く無縁。にもかかわらず、中国は武力を使ってチベットを自国領土としましたが、それだけにはとどまらず、非中国的なチベット人の精神改造を狙って、今に至るも弾圧を繰り返しています。 『激震東洋事情』によると、中印戦争で大敗したインドは、中国に加えて強大な軍事国家になったパキスタンからの攻撃に備えて、中国に近い北部にあった工業地帯を、55校の工業大学共々ごっそりと、中国からはもっとも離れた南部のバンガロールに移転させたという。この地はインドのシリコンバレーとして世界的にも有名になっていますが、その始まりが中国の攻撃を恐れてのことであったとは、インドが中国をいかに恐れているかが分かります。しかしインドはただ中国を恐れているだけではありません。自力で国を守る姿勢も堅持しています。核も保有していますが、核保有大国、中国を前にすると、インドだけを非難することはできません。 しかし経済大国になった中国には、軍事力だけでは対抗することは難しい。どこの国であれ、この中国の経済力や中国市場を無視しては存続が難しいからです。事実、強大な経済力を得た中国は、その経済力を駆使して覇権の拡大に力を入れています。アジアインフラ銀行(AIIB)や一帯一路構想は、中国の国際的な影響力の大きさを世界に強く印象づけました。正式には参加していないアメリカと日本も、中国のもとになびき始めています。 ところが、この中国を公然と批判する国が現れました。インドです。インドはアジアインフラ銀行(AIIB)には参加していますが、14日、15日、北京で開催された、中国が主導する一路一帯国際会議には、招待は受けたものの出席を拒否したという。詳細は産経新聞ニュース(2017/5/22)がインド・ヒンドゥスタン・タイムズ「公然とボイコットしインドは、最も声高な反対国となった」「資金調達法など説明要請を中国は渋った」と報道しています。この記事の前に産経新聞は2017/5/14にインド、会議参加を拒否、中パ経済回廊に反発という記事でインドの不参加を報道していますが、不参加の理由は、22日のインド紙引用記事がより詳細です インドが出席を拒否したことはNHKも含めて他紙では報道していないはずですが、インド紙を引用した記事には、中国の「現在」が核心をついて簡潔に示されています。超大国と化した中国にも一切おもねることなく、事実をそのまま伝えるインド紙の記事には、一読後、粛然とさせられました。日本にはもとより、世界にもここまで書ける記者や新聞社はいないはずです。インドの不参加やインド紙の記事を紹介した産経新聞は貴重ですが、韓国政府に続き、中国政府からも嫌がらせを受けないかと心配です。
実はインドの不参加を報じた記事は、本号のテーマを書きながら、どうしても解けない難問にぶつかっていた、その難問をも瞬時に解いてくれました。北朝鮮がなぜ、一帯一路国際会議開催直前に習主席の顔に泥を塗るようなミサイル発射を強行したのかという難問が解けずにいました。この難問が解けなければ、北の核、ミサイル開発は中国支援下でなされているという、本号の趣旨と矛盾します。誰も彼もが北のミサイルは習主席の顔に泥を塗ったとは指摘していますが、なぜ北がそこまで反中国的な行動を取りうるのか。にもかかわらず、中国はなぜその北の暴発を許しているのかなどについてまでは、探索しようとはしていません。
本当に北が反中国的な行動を取ったのであれば、北の背後には中国以上の強力な支援者が存在することになりますが、それはアメリカ以外にはありえぬことは言うまでもありません。しかしアメリカが中国に対抗して北の支援者になることは100%ありえません。もしそうであれば、中露も北を支援、支持するどころか潰しにかかるはずです。
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