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葦の葉通信 31号 2017/6/2 |
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久本福子 加計学園問題の深層 29日に、またもや北朝鮮がミサイルを発射しました。しかも、新たに開発した精密誘導システムを導入した弾道ミサイルの発射に成功したという。前日には対空迎撃ミサイルの発射実験も実施されたという。北朝鮮によるこれの報道がどこまで事実なのかは不明ながら、中国指導による北朝鮮でのミサイル発射実験が、急ピッチで進んでいることは確かなようです。北朝鮮を介しての中国によるアメリカへの牽制が第一ですが、日本に対する威嚇も含んでいるのは間違いないでしょう。 中国は北朝鮮に対しては、パキスタンとは比較にならない強力な軍事支援も続けているはずです。北朝鮮は中国の鉾とも盾ともなりえますが、現に立派な盾として中国に貢献しています。核実験を繰り返しても、ミサイルを発射しても、世界の非難は北朝鮮に集中します。しかも非難されればされるほど、北朝鮮の存在感は増すばかり。背後に中国がいることは明白ながら、北朝鮮を表に立てているだけに、アメリカも日本も世界も非常に対応が難しい。 しかしよくよく考えると、北のミサイルは一度も韓国ソウルの上空を飛んだことはなく、全て日本海に撃ち込まれています。そのうち4回は排他的経済水域、いわば日本の領海内にぶち込まれたわけですが、日本は一度も反撃していません。自国の領海内にミサイルをぶち込まれて、事実上黙認している国、日本。こんな国は他にあるのでしょうか。 折も折、30日には、中国の外相に当たる楊国務委員が来日しましたが、楊氏は日本政府に対して、北朝鮮問題は平和的な交渉による政治的解決を求めたという。北には実力行使をそそのかし、その軍事力を高め、繰り返し日本海にミサイルをぶち込ませていながら、日本には無抵抗主義を求める中国。 日本は中国と北朝鮮から背中に銃口を当てられながら、黙って我々の要求を呑めと脅しをかけられているようなものです。しかし日本政府も日本国民のほとんども、自力でこの脅迫を跳ね返そうとは考えたこともないはずです。日本国民自身も、中国政府に完全に同調し、平和的解決を求めています。この異常なまでの無抵抗主義は、憲法9条の賜物なりや? さて本題の加計学園問題ですが、この問題は前川喜平前文部科学事務次官の告発により、新たな展開を見せています。文科省の事務方トップであった前川氏が、加計学園(岡山理科大学)の獣医学部新設に関して、安倍総理の意向があったとする文書は実在すると公の場で断言しただけではなく、獣医学部新設は何の根拠もなく(つまりは安倍総理の意向によって)決められたもので、「行政がゆがめられた」とまで批判しています。事務方トップの証言となれば、真実味も極度にアップ。野党はもとより、ほとんどのマスコミも、前川氏の告発を勇気ある行動と称賛し、安倍政権批判を強めています。 しかし事の経緯は、ほんとうに前川氏の言い分どおりなのでしょうか。この疑問に、元経産省官僚で慶応大教授の岸博幸氏が次のように答えてくれています。 ダイヤモンドオンライン2017/5/26加計学園の報道されぬ真実、黒幕は総理・官邸・内閣府ではない!
岸というお名前から安倍総理の親戚筋の方なのかと思い、ネットで調べてみましたが、親族ではないようですのでご紹介させていただきました。岸氏は、経済専門家として優秀であるばかりか、テレビなどにも出演し、専門的知見を使いつつ大衆的な人気も得ている方のようなので、よく知られている大学教授のようです。 詳細は上記リンク先をご覧いただきたいと思いますが、岸氏は元官僚であった人脈をフルに使い、各方面に取材して事実を確認した上で書かれたとのことです。ポイントを抜き出すと、 1 獣医学部新設は52年も認められなかったほど、強固な岩盤規制と化していたのですが、「獣医師の需給を所管する農水省とその族議員、その背後にいる日本獣医師会が反対してきたからです。」 2 獣医学部新設に限らず、強固な岩盤規制を突破し、省庁や族議員の反対を抑え込むために、「官邸の意向」や「総理の意向」という「ブラフ」(はったり、威嚇)を使うことはよくあることだという。 3
安倍政権は、特区は全国展開したいと考えていたので、獣医学部新設に関しても制限を設けずに、申請があれば全て認める方針であったという。しかし「所管する農水省や自民党(=族議員)」と協議し、調整する過程で「『広域的に獣医学部が存在しない地域に限り新設を認める』という表現を入れるという形でまとまったのが真相です。」その結果、京都産業大学と加計学園の2校の応募があったという。 4
さらにパブリックコメントを公募した際、「日本獣医師会から『広域的に獣医学部が存在しない地域とは 1ヵ所、1校であることを明示しろ』という意見が出され、自民党の国会議員からも同様の要望があったので、最終的に獣医学部新設は1ヵ所に絞ることにな」り、近隣の大阪に獣医学部のある京都産大がはずれ、四国には一校もないことから、加計学園(愛媛県今治市)だけが残ったという。 5 「つまり、結果として加計学園だけが認められる形になったのは、総理や官邸、内閣府の作為や責任ではなく、獣医学部の新設にずっと反対して今回も大反対を繰り広げた、自民党の族議員と日本獣医師会の意向によってなのです。」 以上のような経緯を見るならば、総理の意向によって決められたものではないことは明らかです。岸氏は、個人でも以上のような事実は確認できたにもかかわらず、野党やマスコミがほとんど調査もせずに、「総理の意向」ありきを大前提にした批判や報道をしていることを批判しています。特にマスコミの責任は重いと批判しています。 この案件を閣議決定する際、麻生財務大臣は反対したことも報じられていましたが、麻生大臣は日本獣医師会会長であり、自民党福岡県連会長でもある福岡県議の蔵内勇夫氏とは昵懇の仲です。麻生大臣が、蔵内氏との個人的関係とは100%無関係に反対したとは考えにくい。 実は蔵内氏は、2016年、鳩山邦夫氏の急逝にともない、福岡6区で実施された補欠選挙で敗北し、責任をとって一度県連会長を退いていましたが、最近、再び県連会長に復帰しています。この補欠選挙の経緯は複雑で、邦夫氏の次男で当時福岡県の大川市長であった二郎氏と、県連会長の蔵内氏の長男で林芳正元農水相の秘書・蔵内謙氏が同時に立候補し、共に自民党の公認を求め、大紛糾しました。自民党本部も困惑したものの、世論調査の結果、二郎氏の人気が圧倒していたことから、謙氏に立候補辞退を勧告しましたが、福岡県連と謙氏側はこの勧告を無視して選挙戦に突入。 麻生大臣も謙氏を支援していましたが、党本部としてはいずれにも公認は出しませんでした。結果は予想どおり謙氏が大敗。この大敗の責任をとって蔵内氏は県連会長を一旦は辞任しましたが、最近、会長に復帰。加計学園問題で、蔵内氏が、にわかに衆目を集めることにもなった日本獣医師会会長であることも、この学園騒動で初めて知った次第ですが、今回の騒動は、蔵内氏のお名前が県外にも知られるきっかけにもなっています。 以上のような経緯から見ても、麻生大臣の反対表明は、蔵内氏との親密な関係とは全く無縁のものだとはいえないはずです。しかし麻生大臣に対しては、お仲間の利益を代弁して反対したとの批判は皆無です。反対はよくて、賛成はダメだというのでは筋が通りません。問題は、賛否いずれが国の政策としては良策かという点での政策論争が展開されるべきであるにもかかわらず、野党、マスコミともに、岸博幸氏が調査したような基本的な事実すら確認しないままの、本道をはずれた安倍総理攻撃を展開しています。 ちなみに現在、獣医学部を持つ大学は以下の16校です。 <国立大学> 北海道大学 帯広畜産大学 岩手大学 東京大学 東京農工大学 岐阜大学 鳥取大学 山口大学 宮崎大学 鹿児島大学
大学の数が増えると、学生の質も教員の質も低下することは、小泉構造改革時代に大学設置基準が緩和され、一気に急増した一般大学では証明済みですが、上記リストを見ると、四国の愛媛県に獣医学部が一校新設されることが、根拠なき新設だとも、不合理だとも、非合理だとも思えないのですが、いかがでしょうか。 またこの問題では、加計学園だけが矢面に立たされていますが、繰り返し設置を請願してきた愛媛県今治市の願いについては一顧だにされていません。批判する方々は、四国の小さな自治体今治市の願いは不当だと考えているのでしょうか。では、大学誘致に期待をかけている今治市に対して、どのような新しい提案をされるのでしょうか。 ただ日本の畜産農業に関しては、頻発する感染症への対策も重要ではあるものの、自由化に伴う打撃にどう対抗するのかは、より重大な課題だと思います。政府はもとより、獣医学部もこの難題にも取り組む覚悟が求められているはずです。自由化の進化と深化で、日本の畜産業が消滅してしまったのでは、獣医学部新設どころか、既存の数少ない獣医学部も消滅しかねません。 安倍政権は米国抜きのTTPを推進する方針ですが、日本の畜産業の存続策抜きには、獣医学部新設も全く意味がありません。しかし今現在も、バター不足やヨーグルトの原料となる脱脂粉乳は輸入に頼り、不足を補うために輸入量を増やしているという。牛乳もお米同様、農水省の規制下にあり、生乳の大半は牛乳として出荷されていますので、加工に回される量が事実上制限されていることから、乳加工品は輸入に頼らざるをえない状況になっています。不可解極まりません。強固な規制下で、日本の畜産業は、強い農業とはほど遠い状況下に置かれています。 安倍政権にとっての重要な課題は、これらの岩盤規制を突き破ることではないかと思います。今回の前川氏の告発事件は、政治家が官僚を使うことの難しさが初めて公開されるきっかけにもなりました。思い余った官邸は、前川氏の私的な醜聞を読売新聞に流したらしいとのことですが、この問題の本質は、獣医学部新設が、日本や四国、愛媛県今治市にとって必要なのか否かではないかと思います。 特に今治市は、非常な困惑の渦中にあるはずです。与野党ともに、この四国の小さな市に対しても、納得のいく説明をする責任があるはずです。 |
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